低迷期から回復期の経営ポイント
低迷期から回復期の経営ポイント①
2024年は、景気の緩やかな回復が続くと予想されていますが、経営環境は目まぐるしく変転し、予測困難な状況は続いています。そこで、文京区中小企業経営協会では、アフターコロナにおける財務安定化への戦略として、個人事業主を含めた中小企業が取り組むべきことをお伝えします。
◆コロナ後の余波と中小企業の未来への挑戦
2023年を振り返ると、コロナ5類移行が実現し、行動制限が緩和され、イベントの復活やインバウンド需要の増加により、経済活動は復調しました。一方、中小企業への総貸出残高は、最高額を更新し続ける中、コロナ禍を契機として始まったゼロゼロ融資の(※1)返済が本格化しています。政府による借換支援策も打ち出されましたが、円安による原材料費や燃料費高騰の影響を受ける中小企業も多く存在しています。こうしたコロナ禍がもたらした環境変化に対して、企業が業績の立て直しをどのように考え行動するか、企業のあり方が問われています。
また、企業が直面している経営上の問題は、製造業は原材料価格の上昇、卸売業は仕入単価の上昇と業界に関わらず価格上昇(中小企業庁「第174回中小企業景況調査」より引用)が上位を占め、加えて需要の停滞、従業員の確保難があげられています。特に建設業、物流業において、「2024年問題」が喫緊の課題となり、さまざまな業界に対して影響を及ぼすと考えられています。
◆財務改革の始まり − つぶれない企業を目指す思考転換 −
ポイントは、以下の3つです。
1.資金繰りを見える化 – 資金繰りのメカニズム
2.経常運転資金を自己資本で賄える財務体質に改善 – 財務体質改善の鍵
3.資金不足に陥る前にメインバンクを中心に早めに状況認識を共有 – 資金繰りで悩まない
1.資金繰りを見える化する − 資金繰りのメカニズム −
資金繰り表を作成し、日常的なお金の流れを見える化し、正しい経営判断を行い安定的な企業経営を実現することです。
売上が好調だとしてもキャッシュが貯まらないと悩む経営者も少なくありません。その理由の1つに、売上代金回収サイクルと仕入支払いサイクルの差異によって、経常的に収支ズレが生じていることにあります。現金取引を行っている業種以外、企業間の信用により売上や仕入は、掛取引を行っていることが多くあります。通常、売掛金等、売上債権の売掛サイトと買掛金等、仕入債務の支払いサイト(※2)には期間の差があり、収支ズレが起こります。この収支ズレから必要とされるのが「経常運転資金」で、通常は自己資本で賄えない不足分を金融機関からの借入金で調達しています。しかし、コロナ関連融資の返済本格化により、手元流動性がどんどんすり減り、気付いたら資金繰りに窮して経営危機に陥ってしまうという「黒字倒産」のリスクも高まります。
恒常的に発生する収支ズレを認識し、資金繰りを円滑に行うことで、経営危機のリスクが軽減され、財務の安定性向上が大きく期待できます。また、将来の投資において、正しい意思決定の有効手段となります。かつ、この一連のプロセスを踏むことが、金融機関から融資を受ける際の重要材料になるだけでなく、自社の信用力も高まることが期待できます。
2.経常運転資金を自己資本で賄える財務体質に改善する − 財務体質改善の鍵 −
企業経営を安定的に行うために、必要な経常運転資金を十分に確保しておく必要があります。
中小企業の資金繰りが苦しくなる要因として、借入金の毎月の返済負担額が大きいことが挙げられます。年間の営業キャッシュフローを上回る返済をし、返済のための借入れを繰り返すことで、返済負担が増大します。債務超過の企業は、金融機関にとって債権回収の可能性が低いと見なされ、資金調達がさらに難しくなります。一方、自己資本が厚いと倒産のリスクが小さいと言えます。倒産のリスクを判断する指標の1つとして、自己資本比率(※3)があり、10~15%以上あれば、問題ないとみなす金融機関も多いでしょう。経常運転資金の不足金額をできるだけ抑え、自己資本で調達することが重要です。
3.資金不足に陥る前にメインバンクを中心に早めに状況認識を共有する − 資金繰りで悩まない −
資金調達前から、金融機関や専門家に早めに相談し、円滑な資金繰りを進めることです。
資金不足になりそうになった際、金融機関に追加融資を依頼することが一般的です。一方、コロナ関連融資により企業の抱える債務が過剰となり、返済や新たな資金調達が困難となっていることがあります。コロナ禍に企業を支援するための融資が、アフターコロナにおいて事業継続等に影響を与えるのではないかとの指摘が早くからありました。昨年、金融庁は資金繰り面の対応から、単に資金繰り支援にとどまらない経営改善に向けた支援に転換する必要があるとして、各金融機関に対して要請を行っています。また、2024年1月には地域金融機関に、取引先の中小企業の事業再生の取り組みを強化するよう求めると発表しています。こうしたことから各金融機関において、実情に応じたきめ細やかな経営改善や事業再生支援を早め早め、かつ積極的に対応していくことが期待されます。企業側は、経営が窮地に陥った際の資金調達先という思考を転換し、早めに資金繰り状況や取組み内容を共有してメインバンクと連携し、安全な経営の舵取りをしていくことが重要になります。
◆持続的な成長を支える − 財務戦略と地域の力 −
私たち文京区中小企業経営協会のような中小企業を支援する団体は、中小企業が抱える課題に対し様々な機関と連携して取り組んでいきたいと考えています。
中小企業は、経営改善支援や事業再生支援など、官民金融機関や支援機関との早期の連携が重要です。当協会は、中小企業が抱える実情に寄り添い、財務状況の把握と資金繰り計画支援を提供することにより、将来を見据えた健全な経営の礎をご提供します。一方、事業再生の可能性があったにもかかわらず、時宜を逸して廃業せざるを得ない状況が生じる可能性もあります。こうした危機を未然に防ぐためにこそ、自社の財務状況の正確な把握と適切な資金繰り計画作成は必要不可欠です。
◆ビジネス活動「枝葉」ではなく、抜本的な「幹」の改善
環境変化が続く中、企業がなすべきことは、戦術的なビジネス活動の「枝葉」ではなく、 戦略や経営理念などの「幹」の抜本的改善が重要になります。
企業は変化に柔軟に対応し、倒産リスクの小さな会社を作り、将来にわたり存続し、事業を継続していく(ゴーイングコーンサーン)使命があります。誰もが将来の予測困難な時代において、環境変化を敏感に捉え、変革のチャンスを逃さないよう、先読みすることが不可欠です。また、すべての産業において、パンデミックなどの影響を受けにくいビジネスモデルへの転換が求められています。そのためには、財務が耐えうる水準を維持し、倒産リスクの小さな会社を作り上げていくために、経営者の思考転換が鍵となります。こうした経営の変革を進めるためには、まず足元の資金繰りや資金調達の戦略的な見直しが必要不可欠です。
◆まとめ
経営のポイントとして、今回は財務の観点から資金繰りや資金調達についてお伝えしました。「すぐにできない」「うちの会社は関係ない」「もっとやることが他にある」と思われていたとしても、一度考えてみませんか。企業規模にかかわらず、経営資源「ヒト・モノ・カネ・情報」の一つである財務基盤を構築して、新しいビジネスチャンスを掴む、あるいは強みを発見しブランディングに活かすことも期待できます。
金融機関をはじめ地域には中小企業を支援する機関が多くあります。地域支援機関や周囲のサポートを取り入れ、現在直面している経営環境や状況を冷静に把握し、経営・財務戦略を見直すことで、未来に向けて安定的かつ持続可能な経営を確立できることが期待できます。
文京区中小企業経営協会は地域社会の一員として、地域企業の皆さまとともに地域経済の発展に向けて、地域の関係者と連携・協働に取り組んでおります。「資金繰りの見える化」「財務体質の改善」その他お困りのことやお悩みがありましたら、当協会にお気軽にご相談ください。
※1 ゼロゼロ融資とは、コロナ禍で売上高が減った事業者に対し、実質「無利子・無担保」で融資する仕組みのこと。
※2 支払いサイトとは、取引代金の締め日から代金を支払う・回収するまでの猶予期間のこと。
※3 自己資本比率とは、総資本における自己資本の割合のこと。自己資本比率は企業の財務安全性を分析する指標として用いられ、一般的には自己資本比率が高い方が財務健全性は高いとされている。
(文責:阿部和子)
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