コラム:ブランディング – ビジネス成功への鍵

〜中小企業が生き残るためのブランド力⑤〜

◆はじめに

中小企業が直面する現在のビジネス環境は、過去数年で顕著な変化を遂げています。新型コロナウイルス感染症の影響により、リモートワークの導入やデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が進行しています。さらに、昨年からは円相場の変動、エネルギー価格の上昇、物価の上昇など、経済環境も厳しさを増しています。中小企業がこの困難な状況を乗り越え、繁栄するためには、どのようにして自社のブランド力を高め、それをビジネスに活かしていくかが鍵となります。本シリーズのコラムでは、どのように自社のブランド力を高め活用していくか定期的にお伝えしてまいります。

「ブランディング」は、大企業だけでなく中小企業や個人事業主も取り組むべき課題です。このコラムをお読みいただき、皆様が「ブランディング」に取り組む一歩として役立てていただければ幸いです。

◆ブランドとはそもそも何か(起源)

 ブランドの原点は、「焼き印」(Brand)にあります。当時は放牧してある牛の所有権を示すためのものでした。18世紀初頭、ウイスキーの輸出が英国から始まり、偽造品が増加したため、メーカーはウイスキーの樽に焼き印を施し、出所と品質を保証するようになりました。これが、商標(トレードマーク)の始まりです。要するに、ブランドはその起源において、「印」によって出所と品質をアピールしていました。従って、ブランディングにおいて「印」を何にするかは慎重に決定されるべき重要事項であることがわかります。

 下記では、「右上がかじられたりんごのマーク」を例に、改めてブランドの要素、機能、資産価値について考えてみましょう。

◆ブランドを想起させるもの(要素)

 「マーク」はブランド要素の一つです。ブランド要素とは、私たちの五感を刺激してブランドを思い起こさせるものです。ブランド要素には、視覚に訴えるロゴやシンボルマーク、あるいは色使いがあります。例えば、「右上がかじられたりんごのマーク」はアップル社を想起させます。また、コンビニエンスストアはそれぞれ統一した色使いがあり、色使いを見ただけでコンビニの名前がわかります。その他、聴覚に訴えるものとして、耳に残る短いメロディ(ジングル)があります。マクドナルドのコマーシャルの終わり入る「タラッタッタッター」という短い音楽がジングルです。「It’s a Sony」や「Just Do It」も聴覚・視覚に訴えるブランド要素です。

◆ブランドがもたらす効果(機能)

 企業ブランドである「アップル」を例に、ブランドの機能について考えてみます。ちなみに、ブランドは階層をもつことがあります。例えば、アップルは企業ブランドであり、その下にMacやアップルウォッチのような事業ブランドあるいは製品ブランドがあります。本コラムでは、企業ブランドを想定していますが、基本的な考え方は同じです。

 学術的に、ブランドの機能は4つあります。

・出所表示機能:アップル製

・品質表示機能:洗練されたデザインと高機能

・宣伝広告機能:マークだけで出所・品質を連想できる

・資産価値機能:ファンがいる。「高いけれど買おう」と思わせるなど

 例えば、パソコンに「右上がかじられたりんごのマーク」があると、消費者はアップル社製とわかります。筆者の主観ですが、洗練されたデザインに高機能が加わり「高いけれど欲しい」と感じることになります。そして、そのパソコンを持ち歩くことで、他の人がマークを目にするたびにアップル社が想起され、繰り返しの宣伝効果を生んでいきます。

 ロゴを見るだけ、あるいは特定の匂いを嗅ぐだけで、企業や製品が想起されるレベルに認知度が高まると、ブランドが価値をもち始めます。それを実現するためには、ブランドを定義し認知度を広げる活動が必要です。この活動がブランディングです。

◆ブランド・エクイティとは(資産価値)

 ブランディングが成功し、ロゴを一目見ただけでその出所や品質が理解されるレベルまで認知度が高まると、ブランドは資産価値をもつようになります。資産価値は、次の5つの指標で評価されます。

・ロイヤルティ:ファンの存在

・知名度:多くの人がブランドを認識している

・知覚品質:「美味しい」、「楽しい」等の品質が認知されている

・ブランド連想:ロゴや色、ジングルだけでブランドを認識できる

・特許など法律的権利:商標や特許など法的に保護されている

 有名ブランドは、M&Aにおける企業価値の向上や、ブランド自体が売買の対象となるなど、まさに資産価値機能をもちます。価値あるブランドを構築するには、ブランドの認知度を上げる活動が不可欠です。それを達成するためには、皆様の事業における経営戦略とブランディング戦略を明確にし、一貫したメッセージを発信する必要があります。

次に、ブランディングをスタートする際のコツをご紹介します。

◆ブランディングを始めましょう

 ブランドの効果は、消費者に想起や購買を促すことだけでなく、企業の人材採用の宣伝効果や従業員のモチベーション向上と行動指針としても極めて重要です。ブランディングは大企業だけでなく、中小企業や個人事業主でも実施可能であり取り組むべき活動です。

 ブランディングを始める第一歩は、理念やこだわり、あるいは強みを再認識することです。それらを基に企業や製品の戦略を構築します。企業ブランドならば、企業理念・企業ドメイン・強みに基づいてブランド戦略を作り、視覚的な要素(ロゴ・色づかい・制服)や聴覚的な要素(ジングル・音楽)を含むブランド要素を設定します。

 ブランド戦略とブランド要素を決定した後、経営から宣伝広告に至るまで一貫性のある活動を通じてブランドを構築します。

 ブランドをアピールする際、差別化が欠かせません。以前、中小企業診断士向けの講義(注1)で聞いた差別化の手法をご紹介します。「差別化や特徴付けを要素の掛け算で考える」というものです。例えば、「ぶんきょう」という名前の焼き鳥店があるとします。焼き鳥店「ぶんきょう」=備長炭 ×矢川ミート(仮の肉の有名ブランド)×ワイン のように3つの要素で特徴づけをし、覚えてもらいやすくします。備長炭を使用しているお店は多いですが、加えて矢川ミートを使用し、さらにワインにこだわるとアピールすると、かなり特徴があるお店と認知されます。

 ブランディングの力を、あなたのビジネスにも活用し今すぐスタートしてみませんか。自分の強みを理解するのは容易ではありません。中小企業診断士は、事業者様の強みを見つけて伸ばすことを重要な任務としています。もし自社でブランディングを進めたいとお考えでしたら、文京区中小企業経営協会までお気軽にご相談ください。私たちがビジネスのレベルアップのお手伝いさせていただきます。

参考文献:小川孔輔(2009)「マーケティング入門」日本経済新聞出版社

注1: 藤田隆久氏(名商大ビジネススクール客員教授)の講義

文責 浅野融