顧客を基点とした収益向上策 

~DX、CX、サステナビリティの取り組みで留意すべきポイント~

原材料費の高騰や円安、物流コストの増加などの影響による収益率の悪化や、商品やサービスの値上げによる売上高の低下、慢性的な人手不足など、中小企業を取り巻く環境は非常に厳しい状況が続いています。

収益向上策として、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)の導入やカスタマーエクスペリエンス(以下、CX)の向上、サステナビリティへの取り組みを検討する企業も多いと思います。そこで、文京区中小企業経営協会では、これらの取り組みを効果的に実行するための留意点についてお伝えします。

◆DXの導入

デジタル化は紙の文書をデジタルデータに変換したり、手作業で行っていた業務を自動化することを指します。既存のアナログ業務にかかる時間やコストの削減を生み出すものです。DX化はデジタル化を基本としつつも、顧客や社会のニーズを基に、企業のビジネスモデルや戦略の見直し、組織や企業風土の刷新などを指します。広範囲にわたって企業全体の変革を目指し、競争上の優位性を確立するものです。中小企業のDXの取り組みは下図の通り、前年より増加傾向にありますが、実際に取り組んでいる事業者はまだ15%弱という少ない現状です。(図)

図 中小企業におけるDXの取組状況(n=1,000 単一回答)


出所:中小機構「中小企業のDX推進に関する調査(2023年)

DXの導入策として、作業の効率化を追求し店頭にセルフレジを導入し或いは、今まで電話で人が行っていた受付をインターネット経由のアクセスに限定する事例があります。ただ、ターゲットの顧客層によっては逆に不便を感じ、混乱や顧客離れを引き起こしかねません。このように、DXの導入はタイミングと手法を誤ると、顧客満足度の低下を招くケースがあるため注意が必要です。

DXを導入する際は必ず「顧客を基点にすること」です。顧客の動向をデータで分析し、欠品の防止やニーズに応じた商品・サービスを提供すると同時に、市場の変化を迅速に捉え、品揃えや新商品の開発に役立てることが必要です。

◆CXの向上

CXとは商品やサービス利用時の顧客側から見た体験を指します。一般的に新規顧客を開拓するよりも、一度購入頂いたお客様に再度ご利用いただく方が、広告宣伝費を押さえる点で有効です。リピーターを増やすことや顧客離れの防止にも繋がり、収益性の向上が期待できます。

CXを向上させるためには「顧客が望んでいる、高い付加価値のある体験」の提供が必要です。まず、デジタル化によるCRM(顧客関係管理)システムを活用したデータ分析から、顧客の行動や嗜好を深く理解します。そして顧客一人ひとりに合わせたマーケティング戦略を展開することで、競合他社との差別化を図り、顧客満足度の向上につなげます。

例えば、上位の顧客に対し、特別にオーダーやカスタマイズのサービスを実施したり、普段は見られない製造過程の見学ツアーを企画します。このように、商品や企業を深く理解することができる特別な体験を提供します。また、感謝祭や周年記念イベントなどを開催し、ブランドのファンである顧客同士を繋げるコミュニティの形成も効果的な施策です。

◆サステナビリティへの働きかけ

サステナビリティ活動とは、環境に配慮しつつ、地域社会と共生しながら長期的に持続可能な経営を目指す取り組みです。昨今、企業の営業活動における環境への配慮は顧客が商品を選択する際の基準として大きな影響を与えるようになってきました。通常は廃棄されてしまう原材料を活用した商品や、製造過程を見直して環境負荷を軽減して作られた商品は、それ自体へ価値を付加するだけではありません。企業の活動に取り組む姿勢が顧客へと伝わり、信頼関係を築くためにも重要なポイントです。

まずは経営者だけではなく、従業員全員がサステナビリティの重要性を理解することから始めます。次にCO2排出量の削減や、製造過程の見直しによる廃棄物リサイクル率の向上など、可視化できる具体的な目標を設定ます。そして外部へ活動内容を公開して定期的に進捗を確認します。

この活動は継続することが必要です。また従業員も含めステークホルダー(利害関係者)や地域社会との連携を模索し、活動を事業者単体から拡大させます。地域ぐるみの活性化の一助となることで、周辺住民の支持を集める事ができます

◆収益向上策を実行する際の留意点

DXの導入で顧客データの分析を行い、CXの向上で顧客満足度を高め、サステナビリティへの取り組みが一連の流れとなります。顧客との信頼関係を築くそれぞれのサイクルにおいては、常に「顧客を基点にすること」が重要なポイントです。「顧客のニーズを知り、顧客が求める体験を提供し、顧客に企業の姿勢に対して共感していただくこと」を基本として計画を立て実行していく必要があります。また実行にあたって、経営者が留意すべき点は以下の通りです。

1 戦略の計画と経営者の関わり

DX、CX、サステナビリティは、それぞれの目標を明確にし、段階的かつ具体的な実施計画を立てることから始めます。また、それぞれ任命された担当者だけではなく全ての意思決定には経営者が深く関与して、会社のビジネスモデルを変える意識で取り組むことが重要です。

2 柔軟性とコスト管理のバランス

導入時には低コストで始め、将来のビジネス成長に合わせてシステムを拡張できるよう、最適なツールを選択することが大切です。スタート時から不必要な出費(開発時のオプション経費など)を避け、効率的な投資を選択します。

3 良好な社内外のコミュニケーションと学習の継続化

担当者は社内および顧客や取引先との対話の機会を増やし、信頼関係を築くことが大切です。また、時代の変化に合わせて、必要なスキルを従業員が習得できるように、研修制度などの体制整備も欠かせません

◆まとめ 

顧客のニーズを分析し、再利用へ向けた施策を行い、サステナビリティを企業活動の中心にして顧客に発信していくこと。この一貫した企業活動が顧客に伝わり、高付加価値の商品やサービスが支持され、企業価値を高めます。結果として収益向上に繋がります。

自社で新たにDXの導入やCXの向上、サステナビリティへ取り組みたいとお考えの方は、お気軽に文京区中小企業経営協会にご相談ください。多様な経験・ノウハウをもった中小企業診断士が、中小企業の皆様のご相談に丁寧に対応いたします。

文責:永田あゆみ