コラム:自社の商品・サービスをブランド化するには
~中小企業が生き残るためのブランド力⑥〜
◆はじめに
中小企業を取り巻く環境は劇的な変化を続けていると、ここ数年来、言われ続けてきました。新型コロナウイルス感染症を避ける生活習慣の改善も日常生活に組み込まれ、ビジネスではリモートワークやDXが進められてきました。加えて昨年からは円相場の変動やエネルギー価格高騰、物価上昇など、企業はもとより消費者を直撃する重いニュースが続いています。
今年5月の5類移行以来、コロナ禍と主役が入れ替わるように、現下の経済状況の変動という、消費者の日常生活を脅かす厳しい荒波が立っています。そのような状況下において、中小企業が生き残るために、どのようにして自社のブランド力を高め、活用していくかについてお伝えします。
◆ブランドとは
ブランドやブランディングと聞くと、大企業や高級店が行うものと認識する方もいらっしゃるかもしれませんが、そうではありません。数多くの商品・サービスの中から、お客様に自社を選んでもらうための一つの方法が、ブランドの確立です。お客様が「○○といえば□□(自社)」のように、右から左へ思い浮かぶように取り組む活動がブランディングといえます。
ブランディングは、お金をたくさんかけて広告や宣伝をしたり、奇抜なデザインで人の目をひいたりすることではありません。まずは、自社がお客様にどんな価値(平たく言えば「満足感、お得感」)を提供したいかという想いから始まります。そうした想いを明文化したものが企業理念でもあり、この想いを社内で粘り強く共有化・具現化することで、他社との差別化やお客様からの共感につながっていきます。ブランドが明確に確立できて消費者の支持を得られれば、他社との価格競争を回避できる可能性が高まります。お客様の購入単価の向上や固定客の獲得などの効果が期待できます。
◆ブランドをつくるには
単なる広告宣伝で商品やサービスの性能や効能をアピールするという方法があります。しかし、他社と比べて自社に消費者の心理を鷲づかみする優位性がなければ、多くは価格競争に巻き込まれ、お客様に選んでもらうことは困難です。したがって、自社の商品・サービスを利用した後に、お客様がどんな変化や結果を得られるかを考えて、それを前面に出して訴求することが大切です。
例えば、「いつも新鮮な野菜を食べて、健康的な毎日を送ることができる」、「運動する習慣を身につけて、生き生きと暮らすことができる」といったお客様に生じる特別な変化や結果をアピールする必要があります。自社の商品・サービスを利用することで、お客様がなりたい姿に変化できたり、困りごとが解決したりする結果をイメージしてもらいます。そして、商品・サービスを購入してくれたお客様がその価値に満足すれば、リピート購入や口コミにつながります。こうして、お客様の頭の中に、「○○といえば□□(自社)」という構図が生まれます。これがブランドです。
◆具体的には
ブランド作りの具体的なステップは、次のキーワードに自問自答する過程が欠かせません。
・「誰に」自社の商品・サービスを届けたいですか。
・「何を」提供することで、お客様にどのような独自の価値を感じてほしいですか。
・「どのように」その価値をお客様に届けますか。
「誰に」は、具体的なお客様層を設定することです。自社がターゲットにするお客様層を明確にします。自社が最も得意とするお客様層はどこか、または自社のサービスを最も届けたいお客様層は誰かと考えると分かりやすくなります。例えば、「働き盛りで昼食を食べる余裕のない30-40代の会社員」という具合にイメージを深く掘り下げます。
「何を」は、お客様にどのような変化や結果を提供できるかを具体的に提案することです。お客様のニーズを満たし、自ずと生じる変化や結果がお客様のツボに入れば、自社の商品・サービスへの見る目が変わります。「〇〇といえば□□(自社)」の「○○」の部分に該当します。例えば、「弊社の商品はおいしいスープです」というよりも、「忙しくてもデスクで手軽に食べられる国産原料にこだわったおいしいスープです」とした方が、「昼食用のスープといえば□□(自社)」と想起されやすくなります。
「どのように」では、お客様に自社の商品・サービスを知っていただくための方法を具体化することです。いくら素晴らしい商品・サービスであったとしても、それが多くのお客様に伝わらなければ意味がなくなってしまいます。ブランドは一夜にしてでき上がるものではありません。ひたすら継続的に伝え続けることが大切です。例えば、下記のような方法が考えられます。
・商品パッケージやロゴを工夫して伝える
・店頭でPOP、ポスター、チラシ、口頭で説明して伝える
・ホームページやSNSで伝える
・新聞や地元ミニコミ誌などのパブリシティや広告で伝える
・展示会、イベント、交流会に参加して伝える
このように、「誰に」「何を」「どのように」というキーワードに、社内で一つ一つ答えていくことで、お客様にどのような価値を提供したいかが明確になります。そして、企業としてこのプロセスを粘り強く反復していくことで、そのような自社の想いや提供する商品・サービスに共感するお客様が増えていきます。この一連の活動がブランド作りやブランディングです。
また、ブランドは一度作成したらそれで終わりではなく、世の中の動きを踏まえながら、見直していくことも大切です。法律や税制の変化、業界の状況、流行の変化、技術の進歩、あるいは地勢的リスクなどに合わせてブラッシュアップを続けます。こうして、時代や外部環境の変化に合わせて変えるものと変えないものを選別することで、お客様から支持されるブランドであり続けることができます。
◆まとめ
ブランドとは大企業だけのものではありません。中小企業だからこそ、「〇〇といえば□□(自社)」とお客様に思い起こしてもらうことが一層大切です。多くの中小企業はお客様に喜んでほしい、お客様のお役に立ちたいという想いを強くもっています。その想いをお客様にお届けする方法を考えることがブランド作りの第一歩といえます。
自社の商品・サービスのブランド化に取り組みたいとお考えの方は、お気軽に文京区中小企業経営協会にご相談ください。多様な経験・ノウハウをもった中小企業診断士が、中小企業の皆様のご相談に丁寧に対応いたします。
文責:伊東 裕司
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