海外の視点で再発見する日本企業の価値
~中小企業診断士×一介のビジネスパーソンの見る文京区の未来~

1.海外に出て気づいた「日本の普通」
筆者は一介のビジネスパーソンとして、長年にわたり海外ビジネスに携わっています。駆け出しの頃には中東、その後は東南アジア、北米に駐在し、さまざまな国の方々と仕事をする機会に恵まれました。
海外でそれなりに暮らしていると、日本にいた頃には気づかなかったことが見えてくるように感じています。
その一つが、「日本人が普通だと思っていることの中に、実は大きな価値がある」ということです。
時間を守る。約束したことをきちんと実行する。商品を丁寧に包装する。細かな要望にも対応する。壊れにくいものを作る。店舗を清潔に保つ。お客様から問い合わせがあれば丁寧に説明する。
日本に住んでいると、「そんなことは当たり前ではないか」と思うことばかりなのかもしれません。
ところが、一歩海外へ出て実際に暮らしてみると、必ずしも当たり前ではないことに気づかされます。そして、海外の人から見れば、その「当たり前」にお金を払うだけの価値があるかもしれない、と思う場面が多々ありました。
そこで今回は、海外ビジネスに携わってきた経験と、中小企業診断士として企業経営を見る立場の両方から、文京区の事業者の皆様にぜひ一度考えていただきたい「自社の価値の再発見」についてお話ししたいと思います。
2.「良いものを作る」だけが日本の強みではありません
メイドインジャパンは高品質、というのはいまや世界中の誰でも知っていることではないかと思います。
もちろん、高品質は日本企業の大きな強みですし、筆者も海外生活の中で、日本製品は信頼性が高い、というコメントは多くの非日本人から聞いていました。しかし、日本の強みは製品というアウトプットだけではないということも感じています。
例えば、納期を守ること。
日本企業同士の取引では、指定した日に商品が届くことを前提に仕事を組み立てます。納期や時間を守るのは製品だけではありません。日本の新幹線が1分も遅れずにダイヤ通りに運行し、ほんの2-3分遅れただけでも車掌さんが「遅れて申し訳ありません」とアナウンスするのに似て、納期に遅れることは、われわれ日本人は謝るべきこと、という感覚を持っていると感じます。
あるいは、相手の要望を細かく聞き、必要に応じて商品やサービスを調整すること。購入後も問い合わせに対応し、長く付き合っていくこと。こうした姿勢も、日本では特別なこととは考えられていないかもしれません。
しかし海外から見ると、それが「安心して取引できる会社」という評価につながります。
実はこれらどれ一つとっても日本以上に提供してくれる国はない、というのが筆者の実感です。
つまり、日本企業が提供している価値は、
「製品」+「サービス」+「仕事の進め方」
の組み合わせなのではないのではないか、と思うのです。
ところが、当の日本人はそれを毎日やっていて、また過去からそれを叩き込まれているため日常の一部になっており、海外との比較において自分たちの優位性、強みだと認識していないことが往々にあるのではないか、と感じています。
ここに筆者は、日本の中小企業にとって大きな可能性があると考えています。
3.「当たり前」は、自分ではなかなか発見できません
これは海外ビジネスだけの話ではありません。
中小企業診断士として事業者の方のお話を伺っていると、「うちには特別なものなんてありません」とおっしゃる経営者の方がいます。
しかし、詳しく話を聞いてみると、実はそうではありません。
「昔からこのやり方です」
「お客様に頼まれるからやっています」
「この業界では普通ですよ」
そんな言葉の中に、競争力の源泉が隠れていることがあります。
例えば、他社なら断るような少量の注文に対応しているかもしれません。長年の経験によって、お客様自身もうまく説明できない要望をくみ取っているかもしれません。職人さんが無意識に行っている一手間が、商品の品質を大きく左右しているかもしれません。
それを日本国内の同業者と比較すれば「普通」かもしれません。
しかし、比較する相手を海外まで広げた瞬間に、「普通」が「強み」に変わる可能性があります。
海外に長く住んだことで、筆者はこの「比較する場所を変えてみる」ということの面白さに気づきました。
4.いきなり「海外進出」を考える必要はありません
「うちは海外進出なんて関係ない」と思われる事業者さんもいらっしゃるでしょう。
しかし、筆者がお伝えしたいのは、いきなり海外に会社を作りましょう、輸出を始めましょう、ということではありません。
むしろ、その前の段階です。
まずは、
「自分たちが普通にやっていることは、本当に世界でも普通なのだろうか?」
と考えてみるのはどうでしょうか。
例えば、次のような問いです。
- 外国人のお客様から見ると、自社の商品・サービスの何が魅力なのか。
- 日本では無料で提供しているサービスに、実は値段を付けられるのではないか。
- 長年続けている製法や技術そのものに価値はないだろうか
- 「丁寧さ」「正確さ」「速さ」「清潔さ」「安心」といった目に見えない価値を商品にできないだろうか。
- 日本文化や地域の歴史と組み合わせることで、新しい商品にならないだろうか。
海外進出を決めてから考えるのではありません。
海外という鏡に自社を映してみることで、自社の価値をもう一度発見する。
筆者は、まずそこから始めればよいと思っています。
5.文京区には「海外から見た価値」が眠っている
そして、この視点で文京区を見ると、筆者は非常に面白い地域だと感じています。
文京区には、大学や教育機関、医療機関が集積しています。また、出版・印刷をはじめ、長い歴史を持つ企業や店舗、専門性の高い事業者も数多くあります。
さらに、湯島、本郷、小石川、根津、千駄木など、それぞれの地域に歴史や文化があります。
文京区の魅力は、歴史ある場所や施設だけではありません。大学・教育機関、医療機関、出版・印刷、専門性の高い事業者が近い距離で関わり合う中で、丁寧な仕事や細かな要望への対応、長く続く取引関係が培われてきたのではないでしょうか。そうした日々の仕事の積み重ねも、文京区ならではの価値になり得ます。
私たちはこうした環境を日常的に目にしているため、その価値をつい当たり前だと思ってしまいます。
しかし、海外の人の目から見たらどうでしょうか。
日本の教育、医療、ものづくり、食、文化、歴史、接客などに関心を持つ人は世界にいます。
そこで大切なのは、「日本にこんな良いものがあります」と一方的に発信することではないと思います。
相手が何に価値を感じるのかを知り、自分たちの持っているものを、その人たちに分かる形に「翻訳」することではないかと思います。
これは単に外国語に訳すという作業ではありません。
例えば、100年続いているお店があったとします。日本人には「老舗」の一言で伝わります。しかし海外の人には、なぜ100年間続けることができたのか、何を守り、何を変えてきたのかという物語まで説明した方が、その価値が伝わるかもしれません。
逆に、日本では高く評価されている特徴が、海外ではそれほど重要ではないこともあります。
だからこそ、「こちらが売りたいもの」ではなく、「相手から見て価値のあるもの」を考える必要があるということなのでしょう。
まさにマーケティングそのものです。
文京区で仕事を続ける中で、お客様からどのような期待を受けてきたのか。この地域の人や組織との関わりが、自社の仕事にどのような厚みを与えているのか。こうした問いを改めて考えてみると、自分たちでは当たり前と思っていた強みが見つかるかもしれません。
6.海外ビジネスで大切なのは「違い」を面白がること
海外で仕事をしていると、日本の常識が通用しないことは日常茶飯事です。
「なぜそうなるのだろう」と戸惑うこともあります。
しかし、長く海外で生活していると、少しずつ考え方が変わってきます。
日本と違うことを「困ったこと」と考えるのではなく、
「なぜこの国ではこうするのだろう」
と考えてみる。
その違いの背景には、宗教、歴史、気候、法律、教育、家族観などがあります。それを理解すると、その国の人が何に困り、何に価値を感じるのかも少しずつ見えてきます。
そして、そこにビジネスの種があるのではないかと思います。
海外ビジネスとは、日本の商品を外国へ持っていくことだけではなく、「日本にあるもの」と「海外にあるニーズ」を結びつけることではないかと筆者は思います。
7.中小企業診断士としてお手伝いできること
では、自社の「海外から見た価値」をどうやって見つければよいのでしょうか。
筆者は、第三者と一緒に考えてみることも一つの方法だと思います。
自分たちにとって当たり前のことほど、自分たちでは気づきにくいからです。
「御社では、なぜこれをやっているのですか」
「お客様は、なぜ他社ではなく御社を選ぶのでしょうか」
「その工程は、どこの会社でもできるのでしょうか」
「外国のお客様だったら、どこに価値を感じるでしょうか」
そんな質問を繰り返していくと、経営者の方自身が気づいていなかった強みが見えてくることがあります。
中小企業診断士は、財務やマーケティング、事業計画などを分析するだけではありません。経営者の方と対話しながら、その会社が持っている可能性を一緒に整理することも大切な仕事だと筆者は考えています。
海外ビジネスの経験を持つ者であれば、さらに「日本の中での強み」だけでなく、「世界から見た強み」という視点を加えることもできます。
いまはChatGPTなどのAIを壁打ち相手として使う経営者の方も多いと聞きます。しかしながらビジネスはあくまでも人間がやるものだと思います。AIはいろんな切り口を提供してくれるツールになり得るとは思いますが、やはりいろんな経営現場やビジネスの現場を見てきて経験してきた専門家は現場に即した視点を持っていると思います。
8.文京区から世界を見てみませんか
筆者は海外にそれなりの期間住んだからこそ、逆に日本の良さに気づくことがあると思っています。
日本に帰ってくると、街がきれいなこと、公共交通機関が正確に動くこと、店舗で丁寧に対応してもらえることなど、一つひとつが決して世界の「当たり前」ではないことを改めて感じます。
企業も同じです。
毎日繰り返している仕事の中に、まだ誰にも気づかれていない「価値」が眠っているかもしれません。
それを見つけ、磨き、相手に伝わる形にすることができれば、海外への輸出にもつながるのかもしれません。訪日外国人向けの商品になるかもしれません。あるいは海外とは直接関係なくても、自社のブランドを見直し、国内で新しい顧客を獲得するきっかけになるかもしれません。
ですから、最初から「海外進出」と大きく構える必要はないと思います。むしろ海外の目をもって自らの製品やサービスを見つめ直す、そんな考え方が必要なのではないかと思います。
まず、自社について一つだけ問いかけてみていただきたいと思います。
「私たちが当たり前だと思っていることの中に、ほかの人がお金を払ってでも欲しいと思うものはないだろうか?」
その問いから、新しい事業が始まるかもしれません。
文京区には、まだ世界に知られていない価値がたくさんあると筆者は思っています。
中小企業診断士として、そして長年海外ビジネスに携わってきた一人のビジネスパーソンとして、事業者の皆様と一緒に、その価値を見つけて区内事業者の皆様の発展、ひいては文京区の発展、日本国の発展に貢献できれば、と思います。
文責:安田雅哉
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