企業のリスク管理の要点

~企業のリスク管理~

 最高値をつけた日経平均株価に代表されるように、円安を背景に大企業を中心とした収益改善が進んでおり、総じて日本経済の見通しは好転していますが、中小企業を巡る経済環境は複雑で一様でありません。未だCOVID-19パンデミックからの回復を目指している企業は多くありますし、原材料や光熱費などの価格上昇、データプライバシーなど急速に進むデジタル化への対応、人材の維持や確保など様々な問題に対応する必要が生じています。そこで、文京区中小企業経営協会では、潜在的に生じているリスクに対応するための管理の重要性と、取り組むべき課題についてお伝えします。

◆リスク管理の重要性

 リスク管理は企業経営において極めて重要な要素です。経営計画が達成できなかった時、リスク管理が徹底されていなかったことが主因となっている場合が多く見受けられます。例えば今期50億円の経常利益という目標を立てましたが、原材料費や電力料金の値上がりなどの要因で達成できなかったとします。この場合、最初の計画時に、このリスクに対してどう対応するか、例えば原材料入手の代替ルートの確保、最終的な価格転嫁をどう図るかなどを決めていれば、最終的な利益目標に到達できていたかもしれません。

 現代のビジネス環境では、市場の変動や競争の激化、自然災害、テクノロジーの進化など、さまざまなリスクが企業に影響を与えます。リスクを適切に識別し、評価し、管理することが企業の成長に不可欠です。

◆リスク管理のアプローチ

 企業の持つリスクやその対応方法については、業界や企業特性によって様々ですが、一般的なアプローチを以下に示します。

1.リスクの特定

リスクの特定をするにあたっては、思いつくままリスクをあげてリスト化してもいいのですが、抜け漏れを極力なくすように、リスクを内部リスクと外部リスクの二つに分けて考えていきます。

内部リスクは内部要因に関連するリスクで、システムの不具合、品質管理の不備などで、社内プロセスや手順、人員、技術に関連するリスクを特定します。

外部リスクは外部に起因するリスクで、市場動向、法的規制、競合関係などです。

2.リスクの発生確率と影響度

 リスクについて特定出来たら、次に各リスクが発生する確率を評価します。同時に、各リスクが発生した場合の影響度を評価し、リスクが企業に与える潜在的な影響を数値化します。なかなか数値化は難しいかもしれませんが、例えば発生確率・影響度ともに大雑把でいいので5段階に分けてみてはどうでしょう。この発生確率と影響度を下記のようなマトリックスにするとリスクの重要度が目で分かり、リスク対策を施さなければならない優先順位が解りやすくなります(下記のグラフでは発生確率は0%から20%ごとに、影響度は0.2ごとに0~1で数値化しています)。

3.リスク管理計画の策定

 優先順位の高いものから、適切な対策を策定します。対策は大きく分けてリスクを回避するもの、軽減するもの、受容するものの3つに分けられます。

 回避できるリスクとしては、そのリスクを取らなくても事業が継続できるものが挙げられます。具体的には、信頼性が低く、支払い遅延や品質問題が起こりやすいパートナーとの取引の取止め、特定の市場での事業展開を回避する、不確実性の高い事業への進出を見送るなどがあります。

 軽減できるリスクとしては、とらなければならないリスクではあるものの、リスクの影響度を軽減できるものがあげられます。軽減する方法としては、火災保険や責任保険を使い、実際に災害や事故が起きた時でも金銭である程度保証が得られるようにすることや、販売の減少に備えて異なる地域や業界での販売先を確保してリスクを分散する、セキュリティシステムを強化しデータ漏洩リスクを軽減するなどが考えられます。

 受容するリスクとしては、企業としてとるべきリスクです。企業経営をする限り、ある程度のリスクをとって収益をあげることはある意味当然と言えます。ただ、とるべきリスクと言っても対応方法は検討すべきです。具体的には、常に変化する市場に対し迅速な意思決定ができる社内体制を整えたり、変化に対応する柔軟な組織制度を導入したり、予備資金を確保し万一のリスク発生に備えるなどの対応策があります。

4.リスク管理の監視と改善

 市場が変化するようにリスクも常に変化します。そのため、リスク管理を定期的に実施・改善する体制と改善プロセスを確立します。具体的には、誰が、いつ、どのようにリスクを監視し、評価し、経営者に報告するといったプロセスを確立することや、対応策を誰が、いつ作成し、経営者に報告するかです。人員の少ない中堅・中小企業では経営者や経営陣が自ら行う必要もある場合も多いかと思います。いずれにせよ毎年決まった時期に評価を行い、経営陣で共有し、対策を策定することを社内ルールで定め実行することが大切です。また、定期的な見直しに加え、環境が変化したり、新規事業に乗り出す場合は、経営計画を策定するのと同時にリスク管理も見直す必要があります。

 また、リスク管理に関わらない従業員にもリスク情報を共有すること、具体的にはどのようなリスクがあり、どのような対策を立てているかを教え、出来れば見える化することも大切です。社内で情報を共有することにより、まだ影響が少ないうちに迅速に対応できるほか、現場レベルの視点でのリスク管理への提言を受けることが出来ます。

◆まとめ    

 リスク管理は現に発生している事象ではないことから、時に後回しにされて、実際の事象が起きた時には対応する手段が殆ど残っていないということが頻繁に起きています。大企業であれば経営体力もあり、そのリスクが表面化しても、一時的に耐えやり過ごすことが出来るかもしれません。しかし、中小企業の場合、表面化した一つのリスクが、大きな問題となってしまうこともあるかと思います。そのためにも、リスクを特定し対策をたてることが重要となってきます。また、繰り返しになりますが経営目標が達成できない場合、リスク管理の甘さが背景にある場合が多く、経営計画策定とリスク管理をセットで行うことは、企業を発展させる有効な手段となっています。

 自社のリスク管理に取り組みたいとお考えの方は、お気軽に文京区中小企業経営協会にご相談ください。多様な経験・ノウハウをもった中小企業診断士が、中小企業の皆様のご相談に丁寧に対応いたします。 

責:植田裕之

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