コラム:DXの前にすること・したいこと・行うこと
- 2023年中小企業白書より
2020年から日本の経済の停滞の要因となってきた新型コロナウィルス感染症の大流行は、2023年5月8日に5類感染症となり、環境的には終息となりました。既に1年前の2022年6月には外国人の観光による入国ができるようになっており、テレワークの実施率の減少とこれに伴う出社率の増加から、都内の通勤ラッシュ状況はコロナ禍以前へ戻ったと言っても過言ではありません。
2022年4月28日に公開された中小企業白書によりますと、2022年の経済指標はGDP成長率や業況判断DIについても回復や内需が堅調であることが伺える結果となっています。しかし、これを大企業と中小企業という括りで分類しますと、企業の経常利益や設備投資において、双方ともに回復はしているものの、数値指標では大企業の方が圧倒的によく、結果に大きな隔たりが存在するのも事実です。内閣府や中小企業庁では大企業と中小企業がともに成長できる持続的な関係を構築することを目的に「パートナーシップ構築宣言」の制度を構築しましたが、中小企業では未だ原油高や円安による物価の急激な上昇に対し、値上げによる必要に応じた価格転嫁が機能していないことが伺えます。これらの課題に対する解決策として、中小企業が更なる生産性向上と人手不足の解消を同時に行うためにはDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む必要があります。
本コラムでは、中小企業が抱える問題点を解消していくためのDXのあり方をITベンダー(ここではシステムサービスの売り手側)の言いなりではなく、中小企業が主体性をもってDXに取り掛かるための気付きになることを目的に筆を進めていきます。
2. DXって何だろう?DXの主体者って誰だろう?
まずは用語の定義を行います。DXとはデジタル技術を浸透させることで人々の生活をより良いものへと変革することです。実現するには、デジタル技術(AI・IoT・ビッグデータなど)を用いて、①業務フローの改善、②新たなビジネスモデルの創出、③レガシーシステムからの脱却、④企業風土の変革などを行います。
これをお読みになって、「良い話だ」と感じた方はもうITベンダーへ自社システムの構築や改善を依頼する時期が来ています。ただ、今一度読み直してください。上記の内容は、売り手側(ベンダー側)の言葉です。
多くの中小企業がDX化のために高額の投資を行ったにも関わらず失敗している事例は非常に多く、その原因がDX導入を目標としてしまい、社長や事業主といったリーダーの「(目的)何のために何をやるのか?」「(手段)実現するには何が必要か?実現するには何を買うのか?」に関して、本来の目的と手段が逆転していることが多いのです。DXを動かすのも利活用するのも全ての従業員です。ここは、中小企業事業者のフットワークの軽さと従業員同士の顔が見える関係性という大企業にはない強みを武器に進めていきましょう。
3. DXの前に行う「脱俗人化!」「目指せ共有化!」
程度はどうであれ、このような状況が身近にありませんでしょうか?
①それ〇〇さんが知っている
②今日は△△さんが休みなので分かりません
③エクセルを回しますので回答してください→あれ?原本はどっち
このうち、①②は俗人化の課題で、③は共有化がされていない課題です。
これらの状況においては金額という目に見える損失は被っていませんが、時間というお金と同価値の損失が生じており、これが生産性を下げる要因となっております。DXの導入にはマンパワーと費用がかかります。中小企業の大切な資金を無駄にしないためのお話となります。
DX化の前にすることとして、リーダーによる俗人化をやめて共有化を進める宣言が必要不可欠です。さらにDX化では、従業員が頭の中やノートの中で蓄積している情報やノウハウを共有化していくこととなります。そのためには全社でDX化に取り組む必要性があり、「誰一人、とり残さない当社のDX方針」を実行していく必要があります。
共有化の際に気を付けることとして、次のことが挙げられます。
①共有化は全員のためのもの「入力作業は全員で行う」
②定着しないにはワケがある「Aさんは住所録入力を自分でしない」
③定着するよう全社でコミュニケーション「こうだったらいいのに」「〇〇だから手間がかかる」
中小企業がDX化に取り組む時には、人手とお金と情報(知識)の負担がかかります。現在、人手不足の問題(採用に苦戦していることも含む)や生産性の向上など中小企業をとりまく環境は依然厳しいものがあります。しかし、これらの問題は一過性ではなく、人口減少時代に突入した日本では当然に就労人口も既に減少し続けており、DXに任せられることは任せることが効果的です。中小企業が生き残りをかけるには、家族の次に多くの時間を過ごす職場の仲間と、DXに挑戦し次世代に繋げていく必要があります。
文責 渡辺ミコ
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