コラム:「商品のブランド力」を高める
~中小企業が生き残るためのブランド力③〜
◆はじめに
中小企業を取り巻く環境はここ数年、劇的な変化を続けています。新型コロナウイルス感染症で行動変容が起き、リモートワークやDXが進められてきました。そして昨年からは円相場の変動やエネルギー価格高騰、物価上昇など、企業はおろか市民生活までも直撃する重いニュースばかりです。
今、コロナ禍と主役が入れ替わるように、対照的に市民生活を直撃する厳しい荒波が立っています。その中で中小企業が生き残るため、どのように自社のブランド力を高め、それを活用していくかについて診断士コラムでは定期的にお伝えしてまいります。
◆京都の山寺で育てたメダカ
2023年の年間テーマは「中小企業が生き残るためのブランド力」です。今回は「商品のブランド力」を取り上げます。とはいっても、銀座や青山の街並みを彩るブランドショップのバッグやスーツのことではありません。
京都府下、嵯峨野のずっと奥にある山寺で、筆者の「心の師匠」である高僧が育てている「メダカ」のお話です。大宗派の要職にあった当時は全国を東奔西走していた師匠でしたが、現在は生まれ育った山村に戻っておられます。
豊かな自然が残る故郷で日々取り組んでいるのが、山あいに生息する自然動植物の保護活動です。その資金集めのために3年前に始めたのが、自宅のあるお寺の池で育てているメダカの販売でした。
◆気がかりなポイント
メダカの売れ行きについて、師匠は「ボチボチでんな」と言います。しかし、折々に発信されるSNSを見ると、筆者には気がかりなことがいくつもあります。
容器に記載されているのはメダカの品種だけで、商品名がありません。数匹のメダカをガラス容器に小分けして近隣の「道の駅」に預け、地元産の朝採れ野菜と同じコーナーに置いてもらっていると聞きました。
筆者が「どんな人が買うのですか」と尋ねてみても、師匠は「そら、メダカが好きな人やわ」と答えるばかりで、こちらには買い手の実像も浮かんできません。
筆者にはメダカ売り場の状況や「道の駅」利用者数などの市場環境も詳しく分かりませんが、ちょっとした販売上の工夫をすれば売れ行きが改善できるのではないかと感じました。
◆まずはドメインの構築から
資金力の乏しい個人事業主や中小企業が事業を行う上で重要なのは、「ドメイン」です。ドメインとは①「誰に」、②「何を」、③「どのように」販売するのかを絞り込むことです。
ドメインを構築し可視化することによって、自社の強みを生かした効率的な経営ができるようになります。
本稿では①として「道の駅を訪れる子供連れ客」を相手に、②としてメダカの販売を想定します。③は「道の駅の集客力を活用し、子供連れから注目される販売促進を行う」という前提で話を進めます。
◆「ドメイン」を「ブランド要素」で肉付け
想定したドメインの中で、商品としての強い個性や具体性が乏しいのが②メダカです。そこで「ブランド要素」を活用して、商品(メダカ)の魅力を肉付けしていきます。
ブランド要素とは、自社の商品と他社の商品を区別する要素のことです。一般的に「ネーミング(商品名)」「ロゴマーク・キャラクター」「スローガン・ジングル(音声)」「パッケージ(包装)」などが考えられます。
これらの全要素を採用する必要はありませんが、商品に適切なブランド要素を盛り込むことで、お客様の五感を通じて商品の価値を高めることが可能になります。
◆ドメインとブランドの整合性
商品にブランド要素を盛り込む際に重要なことは、ドメインとの整合性を保つことです。販売するターゲットが「道の駅を訪れる子供連れ客」ならば、そうしたお客様に好きになっていただけそうなネーミングやキャッチコピーを考えてみましょう。
そのうえで可愛らしく自宅飼育に適した容器を選び、商品名やイメージキャラクターを描いたステッカーを貼ることで商品の見栄えがよくなります。理由は、ネーミングやパッケージがお客様の視覚や聴覚に直接訴えることによって、好ましいブランドイメージをお客様に植え付けてくれるからです。同時にブランド要素は商品の印象を強くし、お客様からの認知を高めてくれます。
お客様の深層心理で商品の認知が高まっていくと売れ行きや収益性の向上に繋がります。これが商品の「ブランド力」です。
◆効果的なマーケティングを
道の駅を訪ねるお客様に商品としてのメダカをアピールできるように、キャッチコピーを描いた「ポップアップ」を手作りして売り場に設置することも提案したいと思います。専従の販売員がいないとしても、商品の注目度はアップしていくはずです。
ドメインや商品を整備するだけでなく、商品価格・売り場・販売促進なども含めて効果的なマーケティングを行うことで、商品のブランド力はさらに高まっていくことでしょう。
自社でもブランディングを進めたいとお考えの方は、ぜひ文京区中小企業経営協会にお問い合わせください。
文責:梶 雅一