低迷期から回復期の経営ポイント

〜 事業成長に不可欠な「見える化」のススメ:成功のための管理ポイント 〜

1. はじめに:なぜ「見える化」が重要なのか

 経営において、現状の把握と課題の発見は事業を成功に導くための基本です。しかし、多くの小規模事業者にとって、この「現状把握」を実際に行うことは容易ではありません。忙しい日々の中で、売上や費用、人材管理など、様々な要素が混在し、経営者の頭の中だけで全てを把握することは限界があります。そこで重要なのが「見える化」です。

図表 1 文京区従業者数(出展 RESAS)

 例えば、図表 1は、文京区の業種別従業者数のデータです。教育、学習支援業が最も多いのは文京区の特徴ですが、2番目が製造業というのは意外ではないでしょうか。図式化して視覚に訴えると、比較が容易になり新たな発見をすることがあります。

 「見える化」とは、経営の情報を目に見える形で整理し、問題や課題、さらにはチャンスを発見しやすくすることです。データを分析しグラフや図で表現するのはもちろん、考えていることを言語化し、文字や図に表すことも重要な見える化の一部です。本稿では、この二つの見える化の方法を紹介し、さらに中小企業診断士という専門家の活用についても触れていきます。

データに基づく見える化:事実を数字で捉える

 「見える化」と聞くと、まず思い浮かぶのはデータに基づいた可視化です。売上、コスト、利益などの経営指標をグラフや表にすることで、企業の現状がどのように変化しているかを一目で把握できます。データは集めることが大切です。数字の背後には多くの情報が含まれており、過去のトレンドや季節的な変動、さらには顧客の行動パターンも浮き彫りになります。

 例えば、ある飲食店では、月当たりの損益分岐点売上高を計算し、それを下回らないよう管理しました。昼と夜の顧客数と売上高を毎日記録し顧客単価を求め、高単価メニューとしてコース料理を追加し、並・上の価格設定を並・上・特上の松竹梅方式に変更、あるいはSNSでの情報発信などで成果をあげ、1年間で売上が約40%向上したという事例があります。データの見える化によって、事業者は具体的な改善策を導き出せるのです。

3. 言語化・図化による見える化:考えを明確にする

 一方で、頭の中にある考えやビジョンを「言語化」、あるいは「図式化」することも重要な見える化の手段です。多くの場合、経営者は何を目指しているのか、どのように事業を進めていきたいかを頭の中で思い描いていますが、それを文字や図にして具体的に整理する機会は少ないかもしれません。

 文字に表すことで、自分の考えが明確になり、他者との共有も容易になります。例えば、日々の業務を振り返り、目標や反省点を文字に起こすことで、チーム(経営者と従業員)全体の意識を合わせ、次の改善策を考えやすくなります。さらに、業務フローやビジネスモデルを図にすることで、経営の全体像や関連性が一目で理解でき、課題や強みの発見につながります。

 具体的な例として、あるコンビニエンスストアでは、従業員が日々の業務を振り返り、顧客に喜ばれた成功体験や常連客の情報、お客様からの声を日報に記録する仕組みを導入しました。これにより、従業員同士が経験を共有し合い、お客様対応の質が向上しました。この「見える化」によって、顧客満足度が大幅に向上し、売上にも良い影響を与えました。

 設計・製造業を営む従業員5名の企業で38年続いた事業を息子に承継する際、初めに業務の流れを一枚の図にまとめました。仕入れ先、協力会社、販売先などの関係者を一目で理解できるよう業務の全体像を絵にすることで、スムーズな事業承継がスタートできました。全体像や関係を把握するには、文章を読ませるより、こうした視覚的な見える化が非常に有効です。

4. 中小企業診断士の役割:見える化を支援する専門家

 ここでぜひ紹介したいのが、中小企業診断士という国家資格を持つ専門家の存在です。中小企業診断士は、中小企業に対して経営支援を行う専門家であり、企業の現状を「見える化」し、将来の目指すべき姿を描く手助けをする役割を担っています。

 具体的には、診断士が企業に赴き、経営者や従業員への聞き取り調査を通じて、現在の問題点や課題を洗い出します。その後、フレームワークを活用し、得られた情報を整理し現状と将来の「見える化」を行い、必要なアクションを提案します。このプロセスは、単なるアドバイスに留まらず、具体的な行動計画を提案し、実行に移すための支援までを含みます。中小企業診断士は、単なる外部の助言者ではなく、企業と共に成長を目指すパートナーであり、見える化を通じて経営者が次の一手を、自信を持って踏み出せるようサポートします。

5. すぐに始められる「見える化」アクション

 見える化の取り組みは、決して難しいものではありません。まずは容易にできるデータ収集・分析から始めてみましょう。例えば、売上やコストといった経営の基本データを整理し、グラフや表にすることから始められます。日々の目標や反省点を文章でまとめることも有効です。

  • データによる見える化: データは集めることが重要です。毎月、売上高、変動費(商品が売れるごとに発生する支出)、固定費(家賃、人件費、光熱費など商品が売れなくても発生する支出)を記録しましょう。3ヶ月の平均値を元に
    損益分岐点売上高=平均固定費/(1-平均変動費/平均売上高)を計算してみましょう。それが固定費を回収するのに必要な最低限の売上高になります。それを目安に売上を管理しましょう。
  • 文字による見える化: 毎日の業務報告や、会議の議事録を文章にすることで整理された情報となり、チームに正しく伝えることができます。
  • 図による見える化: 全体像や関係性を把握するには、図に表すのが効果的です。図1のように、比較が容易になり、新しい発見につながります。経営コンサルタントは、目的に応じてさまざまなフレームワーク(情報整理の枠組み)を使って「見える化」をします。例えば、ビジネスモデルキャンバス(BMC)というフレームワーク(情報整理の枠組み)を使って、業務を棚卸しすると、ビジネスプロセスの全体像(何を使って、どういう価値を生み、顧客にどう届けるのか)が明確になります。

これらの手法を取り入れることで、経営の見通しが立てやすくなり、課題解決への道筋が具体的になります。

6. まとめ

「見える化」は、経営者が自らの事業を俯瞰し、課題やチャンスを見つけ出すために不可欠な手段です。そして、それをサポートする存在として、中小企業診断士がいます。

まずは自社で簡単な見える化から始め、必要に応じて中小企業診断士の力を借りることで、より具体的で実行可能な成長戦略を描くことができるでしょう。支援を受ける際は、文京区中小企業経営協会までお気軽にお問い合わせください。見える化の取り組みを通じて、事業の成功への道を一歩一歩着実に進めていきましょう。

(文責 浅野 融)

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