インフレ時代の流動資産活用法

はじめに

 最近、多くの経営者の方から資産運用のご相談を頂きます。「会社の現預金はこのままでよいのか?」「会社の資金だけでなく、自分自身の資産運用につても相談したい」「NISAをやっているが見様見真似であっているか分からない」。昨今の資産運用ブーム、値上げブームから、経営者も資産運用に関して思うところがあるようです。詳細は後述しますが、現預金での保有は時間とともに実質的な価値が低減します。では、経営者として何をしたらよいのでしょうか?経営者を含めた多くの大人たちは、幼少から金融に関する教育を受けておらず、いざ資産運用と言われても何から手を付けてよいか分からない状況ではないでしょうか。

1.お金に関する世の中の動き

 ここ数年、お金に関する世の中の動きが目まぐるしく変化しております。各ステークホルダー、市場の状況を見てみましょう。

(1)個人投資家の動き

 日本証券業協会によると2025年6月末現在の証券口座開設数は約3,975万口座、昨今の投資ブームにより、この5年で約1.5倍となっています。しかし、実際に投資している人は1,400万人と言われ、人口の9人に1人にとどまります。また、株式と投資信託への投資額は保有資産の14%程度。米国では50%を超える現状です。

(2)政府の動き

 政府による「貯蓄から投資へ」との掛け声は言われて久しい。また2022年、岸田政権時代に「資産倍増プラン」が打ち出されております。これには、NISA(少額投資非課税制度)の拡充や国民の金融リテラシー向上施策が含まれています。分かりやすい制度、十分な教育プランが構築されることで、より資産運用がしやすい世の中になると推察します。

(3)世界の金融市場の動き

 コロナ禍で各国が舵をきった金融緩和の後遺症や、ロシアのウクライナ侵攻に起因した原油高騰等により、モノの値段が大きく上昇。各国は物価上昇を抑えようと政策金利を上げていたのは周知の事実です。同時に専門家は欧州・米国を中心とした景気後退を予測。さらに、直近ではAIブームにより株価が上昇しておりますが、過熱気味という見方もあります。株価上昇トレンドでの戦略を考え直す機会とも言えます。

2.なぜ資産運用なのか

 このような世の中の動きの中、なぜ資産運用が必要になってくるのでしょうか?その理由を日本の社会情勢を加味しながら説明します。

(1)物価上昇による現金価値目減り

 現在の日本は長く低金利が続いており、預金でお金は増えないことを日々の生活を通じて実感しているのではないでしょうか。また、足元で物価上昇(消費者物価指数3~4%)が進んでいるうえに、高市政権により、更なる継続的な物価上昇が予想されます。

 物価上昇により、現預金の「実質的な価値」は低下します。例を挙げると、2%のインフレ率のもとでは、25年間で40%の資産価値が減少します。資産運用をしなければ、買えるものが年々少なくなることは容易に想像できます。

(2)年金依存による老後生活の不安

 少子高齢化が進む中、公的年金の給付水準減少が予想され、政府は国民自身で資産を増やしてくことを推奨しています。年金制度は大丈夫かと疑わざるを得ない状況です。時間的に自由な老後であるにも関わらず、お金の心配ばかりをしているのは、とてももったいない生活の仕方だと思います。一定のゆとりをもって自由な生活を送るためには、夫婦で1億2000万円が必要とのレポートがあります。これをもし貯蓄だけで賄おうとすると毎月50~70万円もの拠出が必要なのです。実際は年金があるので貯蓄だけで賄うことはありませんが、それほどの準備が必要といえます。

(3)金融リテラシー不足による受難

 残念なことに、過去の日本の教育から、十分な金融教育を受けていない社会人が多くいます。さらに、日本では、人前でお金の話しをすることをタブー視されています。お金の話しをしないと、自分自身がどれだけ金融知識があるか分かりません。分からないままに大人になっているのです。

 基本的な知識を身につけてさえいれば、20%の利回りの金融商品は詐欺だと気が付きます。また、証券会社や専門家の知人が薦めるからと、確認せずに購入するのは危険といえます。資産運用を勉強・実践せずにいると、金融知識が身につかず、騙されて損失を被ることになるでしょう。

3.資産運用で大切にしたい3つの法則

 では、具体的にどのように資産運用を実践していけばよいのでしょうか?ここでは資産運用で大切にしたい3つの法則について説明します。

(1)長期投資の法則

 日本人のファンド平均保有期間は何年だと思いますか?あるアンケートでは3年未満との結果が出ています。どのような銘柄、ファンドでも常に右肩上がりではありません。過去に大きなショック(下落局面)がありました。リーマンショック・ユーロ危機・ロシアウクライナ戦争・コロナショック・・・。2025年4月のトランプ関税ショックも記憶に新しいと思います。足元の相場が下落しているからといって、安易に売りに走ることはお勧めしません。一攫千金を目指している人は別ですが、多くの人にとって資産運用は長期戦です。一時的な騰落を気にして、売り買いをすることは避けたい行動です。そして長期(20年以上)で上昇しているファンドを選ぶことが重要になってきます。

(2)分散投資の法則

 「卵をひとつのカゴに盛るな!」という投資の格言をご存じ方も多いでしょう。資産運用するにあたって、投資銘柄を1つに絞ると、資産が大きく上昇することもあるかもしれませんが、大きく下落することも大いにあります。それを避けるには特性の違った複数の投資をする必要があります。分散投資と言います。「株式/債券」、「先進国/新興国」、「北米/欧州/アジア」、「伝統資産/オルタナティブ資産」など分散投資はとても複雑で、緻密な分析が必要です。

 そこで選択肢として挙げられるのが、個別銘柄がパッケージングされたファンドや投資信託です。投資のプロたちが分散投資をしてくれており、比較的リスクが小さく、初心者にとって始めやすいと言えます。また、運用に詳しい担当者がいない中小企業にとっても、小さなリスクで長期的な運用がしやすいでしょう。

(3)積立投資の法則(ドルコスト平均法)

 企業や投資の初心者にとっては大きなリスクを取ることなく、資産を堅実に増やすことに注力するとよいでしょう。例えば、収入から最低限必要な生活費を差し引いた金額を、毎月ファンドや投資信託に投資する手法があります。購入タイミングが分散されリスクが低減し、長期で運用することで複利の効果が得られ投資効率が向上します。価格の多少の騰落は気にせず、毎月購入した方がよいとされています。

 もっとも大切なのは、上記(1)~(3)を同時に実施することです。資産運用を既にやっているという方は、この3つを同時に行えているか振返ってみるとよいでしょう。下落局面でもいつもと同じように、コツコツと分散されたファンドや投資信託に対して積立てることが重要となります。

4.会社経営における資産運用

 会社の資金繰りの観点から、一定の流動資産を保有するリスク管理は重要です。また流動資産は、6~9か月ほどの運用資金を賄える程度で十分という考えもあります。それ以上の資金については、お金に上手に働いてもらうのも一手ではないでしょうか。ここでは、経営者からのご相談の中で助言させて頂いた内容を参考までに紹介いたします。

(1)設備投資への適用

 会社の規模を大きくすることは、経営の1つの目標といえます。規模を大きくするためには設備投資が必要、そして設備投資をするための資金調達が必要となります。資金調達として銀行借入を利用することもできますが、余剰な流動資産があれば資産運用に回すことで定期的に設備投資をすることが可能になります。

 仮に6%の利回りで、毎月25万円の積立運用を8年行うと、11年目に1,000万円の設備投資ができます。その後も追加積立なしで、6年毎に設備投資が繰返し可能となります。

(2)退職金・福利厚生への適用

 会社経営では従業員の存在が欠かせません。昨今ではコスト扱いの「人材」ではなく、「人財」と資産とし意識する経営が主流になりつつあります。この人財(経営者自身を含む)がモチベーション高く、会社運営を行っていくために退職金や福利厚生の活用があげられます。この退職金や福利厚生の源泉として資産運用を利用することができます。社労士の先生と相談しながら会社の退職金・福利厚生ルールを作成し、積立運用した資金を従業員・経営者に還元することができます。

おわりに

 かつては、株投資は博打、お金の話を人前ですることは恥ずべき事など、資産運用に対するポジティブなイメージがありませんでした。最近では、書店に投資本が所狭しと並んでいたり、YouTubeには資産運用チャンネルがたくさん存在します。また、政府は金融リテラシー向上に力を入れ始め、岸田政権の「資産運用立国実現プラン」を高市政権が継承しています。

 従業員の幸せ、会社の成長、そして経営者ご自身の幸せのために、積極的に資産運用を考えなければならない時代に入っているのではないでしょうか。

文責 稲吉勝範

本コラムは一般的な情報提供を目的としています。
投資判断はご自身の責任で行い、具体的な検討の際は専門家にご相談ください。

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