「活力」を「利益」に変える投資戦略

~「健康経営®」の視点で組織のパフォーマンスを最大化する~

「健康経営、うちはもう取り組んでいるよ。健診も受けさせているし、残業も減らした。でも、いまいち活気が出ないんだよね……」

もしあなたがそう感じているなら、それは「福利厚生(コスト)」と「戦略的投資」を混同しているからかもしれません。 今、中小企業の経営者に求められているのは、単に従業員の病気を防ぐことではなく、彼らが持っている力を120%発揮できる「組織のOS」をアップデートする戦略です。

1. 経営資源としての「活力資産」

仕事のパフォーマンスは、従業員一人ひとりの「心身の状態」に大きく左右されます。経営者が「投資」すべき対象を整理する一つの有力な考え方として、精神科医・樺沢紫苑氏が提唱する「幸福の三段構成」というフレームワークを経営の視点から紐解いてみましょう。

  • 第1層:活力資産(健康・安定) すべての基盤となる「心身の健康」です。ここが崩れると、どれほど教育をしても成果は積み上がりません。
  • 第2層:関係性資本(信頼・安心) 他者との信頼関係や心理的安全性を指します。これが整うことで、チームとしての相乗効果が生まれます。
  • 第3層:成果創出(意欲・達成) 目標達成や自己成長による喜びです。第1・2層が安定して初めて、持続的な高い意欲が生まれます。

この順番を守り、土台から整えていくことが、生産性を飛躍的に高める「健康経営」の第一歩です。

2. なぜ「自律的な意欲」が最強の武器になるのか?

幸福度が高い従業員は、そうでない従業員と比べ生産性が13%向上するという研究結果(オックスフォード大学サイードビジネススクールの研究:2019年発表)もあり、従業員が「前向きに仕事に没頭している状態」を作れるかどうかは、経営上の死活問題です。

かつての「叱咤激励」によるマネジメントは、短期的な成果は出ても、長期的には離職やメンタル不調を招くリスクがありました。 一方、土台(健康と信頼)を整えた上で「適切な目標」と「称賛」を組み合わせる手法は、従業員の自律的な意欲を引き出し、集中力を極限まで高めます。 これこそが、AI時代においても代替されない、人間にしか生み出せない価値の源泉となります。

3. 中小企業診断士が支援する「組織デザイン」の3ステップ

我々中小企業診断士が、経営改善の現場で健康経営の視点を取り入れる際、組織の仕組みを整えることで、自然と成果が上がる循環を設計します。

  • 【土台】労働環境の適正化(セロトニン基盤) 睡眠時間の確保や残業削減を「ルール」として整え、従業員がベストコンディションで働ける「神経のインフラ」を構築します。
  • 【加速】心理的安全性の確保(オキシトシン基盤) 1on1ミーティングや感謝を伝える仕組み(サンクスカード等)を導入し、ミスを恐れず挑戦できる風土を醸成します。
  • 【飛躍】評価・目標設定の最適化(ドーパミン基盤) 自己成長を実感できる評価制度や、会社のパーパス(意義)との紐付けを行い、従業員が自ら動きたくなる仕組みを構築します。

結論:健康を「資本」として経営に活かす

ウェルビーイングは、従業員が「健やかであること(Being)」への投資です。そして健康経営は、その活力を武器に「圧倒的な成果を出す(Doing)」ための経営戦略です。

「うちの社員はもっとできるはずだ」――。 そう思うのであれば、今こそ健康を「コスト」ではなく、最強の「経営戦略」として捉え直してみませんか。我々中小企業診断士は、経営の専門家として、科学的根拠に基づいた強い組織作りを全力でサポートいたします。


※「健康経営®」は、特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標です。詳細は同研究会ウェブサイト(kenkokeiei.jp)をご参照ください。


執筆:山本 久

(中小企業診断士 / 健康経営エキスパートアドバイザー / 薬剤師)


参考文献・さらに詳しく知りたい方へ

本稿の内容をより深く研究されたい方は、以下の文献をご参照ください。

  • 幸福の三段構成について: 樺沢紫苑『精神科医が見つけた 3つの幸福』飛鳥新社, 2021.
  • フロー状態と脳内物質の科学: Kotler, S. The Rise of Superman: Decoding the Science of Ultimate Human Performance. New York: New Harvest, 2014.
  • 心理的安全性の構築: エドモンドソン, A. C.『恐れのない組織』英治出版, 2021.
  • フロー状態と生産性の相関:
    • Csikszentmihalyi, M. Flow: The Psychology of Optimal Experience. Harper & Row, 1990.
    • Cranston, S., & Keller, S. "Increasing the 'Meaning Quotient' of work." McKinsey Quarterly, 2013.
  • 脳科学的知見(専門的リソース):

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